川越周辺観察会報告
開催日 6月23日(日)
集合場所 川越水上公園
観察地 川越周辺平地林(兼堀・上赤坂の森公園周辺、下松原地区雑木林)
参加者 25名(会員21名、一日会員4名)
実施時刻 8:30~16:00
鑑定人 福島隆一、大館一夫、大久保彦、近藤芳明、西田誠之、栗原晴夫
藤野英雄、村田紀彦
世話人 西田誠之、大久保彦、藤野英雄
撮影 西田誠之、大久保彦
a | 下松原地区観察林-① 下松原地区観察林-②
(実施日までの経緯)
令和元年、最初の野外観察会として、今年も、川越周辺の平地林を探索する本観察会
を、実施することになった。当会発足以来、ほぼ毎年、この時期に、同じ場所で実施しているが、観察地の森は、その一部の公園の敷地内はもとより、広大な私有地の林地も綺麗に手入れがされており、数十年間、殆ど変わることなく、保存されている。地主の方々の努力や、ボランテイアの協力もあってのことと思われるが、有難いことである。
今年も変らず多くのきのこが観察可能と期待しながら、新しい元号が発表されるのを待った。いざ発表されて見ると、典拠となったのが私の座右の愛読歌集!でもあり、詠まれたその場所(太宰の官の師、大伴旅人の館跡)も、官人達が膝を突き併せて大酒を飲み交わしたその場面も、よく知っている万葉集巻五の梅見の宴の1節から、「令和」となったことに、大いに気を良くした。私は、この序文に出てくる「天を蓋(きぬがさ)とし、地を坐(しきい)にし、膝を促して盃を飛ばす」という1節が気に入り、かって「天蓋山」という山、岐阜県の僻地、その名も山之村という地にある標高1527mの山を探し出し、遙々登りに行ったことがある。全くの静寂、無人の山であったが、北アルプスを始めとする頂上の絶景もさることながら、何と言っても、きのこが多いこと、多いこと、呆れるほどの大収穫であった、、、新元号が発表されたとたん、その日のこと、手にした美味なきのこのことが、まざまざと思いだされた、、。
しかし、その後が芳しくなかった。個人的なことなので論外だが、その後次々とろくでもない事が続き、体調を崩した。考えて見れば、もはや76歳、新しい元号は、まちがいなくこれが最後であろう、、祝賀ムード一色の中で、やや憂鬱な5月を過ごした。
加えて、気候も異常、、早々と関東地方も梅雨入り宣言が出たが、いきなり超高温の日々、全国規模で連日の猛暑続き、遂に北海道帯広迄が35℃超えの暑さ、、もはや、当たり前なのか、気象庁の発表も、もはや慣れっこのような「観察史上初、高温記録更新」との報道が連続した。6月になると、ようやく少し落ち着き、梅雨らしい涼しい日々が続いた。すぐに、大久保彦さんからもきのこの便りがあった。励まされて、一度、一人で下見に行ってみた。しかし、その後も体調が戻らず、実施日の数日前から、発熱、嘔吐、絶食で、遂にダウン、、、。大きな病院に行って診察を受けると首のレントゲン迄撮られた。
やむなく、欠席を覚悟して、大久保さんや栗原さんに、当日の準備や進行をお願いして、数日臥したまま、実施日を迎えた。目覚めてみると、幸い、熱は引いていた。携帯電話をみると種々着信が入っていた。やはりこのまま休む訳には行かない、、。何とか、起きだして、マスクと帽子で顔を隠して、ボロ車のハンドルを握った。7時過ぎに管理事務所についてみると電話で応対して下さった管理官がもう出勤されていた。ご挨拶すると、「申し訳ないが、、」とのことで、降雨に備えて提供して下さる筈だった施設が急に使用されることになり、代わりに、事務所裏手の屋根のある場所を用意したとのこと。そして、事務所の廊下の窓から、その場所を、丁寧に指し示して下さった。いつも乍ら、有難いことで、伏して御礼を述べた。空模様は、晴れ間はまったく見えないが、全面高曇りで午前中の観察採集には、支障がなさそうである。しかし、朝の予報では、前日より悪くなっており、午後は埼玉地方は、すべて雨となっていた。
開始時刻前の8時には、ほぼ予定の方々が参集された。初参加の新入会員の方や、一日会員の方も早くから来られていた。8時30分迄待ってから、行事を開始した。大舘副会長は、直接観察地へ行かれたとのこと。福島会長もそのようである。近藤副会長の挨拶の後、大久保さんや藤野さんから、予定や注意事項を説明してもらった後、早々に観察現地へ出発した。今年は、智光山公園への希望者はなく、赤坂の森公園も少数で、下松原地区への希望者が多かった。
(観察地にて)
私は、同定作業の準備をした後、相当遅れて、下松原地区へ行き、ジョイフル裏の、ごく狭い範囲を、観察した。意外なことに、人影が全くない。森の中は、しっとりと湿り、穏やかで爽やかだった。下見をした時に、見つけたアセハリタケの群生を、まず見に行った。コナラと思われる、相当な大木の切り株をボロボロにして、まだ数株に渡って、重生している。新鮮な菌体は、傘表面に粗毛を密生し、綺麗な白色で目を引くが、程なく、褐色化し朽ち果ててしまう。柔軟な肉質で、かなり厚みがあるが、裏面は、びっしりと幅のある針が密生する。すでに朽ち果てた姿の残骸もあるが、その有様は。本来の傘や針の色はみじんもなく、全体に黒褐色で,傘の上面の疎毛も抜け落ち、環紋のような模様が現れて、脆くボロボロに朽ちている。ここでは、広葉樹に生えたが、マツ等の針葉樹に生えることも多いと言われている。私は、過去何度か目にしており、特に、珍しい菌とは考えていなかったが、本観察会では、初出と思われたので、何枚か写真を撮り、新鮮な菌と朽ちた菌の両方を採取した。
その後は、テングタケ属の不明菌(ツボ無く、ツバもなく、柄が細く、傘の縁に条線がある薄黄色の小菌)や、アミスギタケ、キクラゲ等を見た程度で、ベニタケの仲間の一つも見つけられなかった。倒木に、アラゲカワラタケやチャウロコタケ等が群生しているところで、沼田さん等数人の方々と行き逢った。手籠の中を見せて貰うとベニタケ等いろいろ入っていた。そこへ、福島会長もやってこられた。私と同じ、テングタケ属の小菌をみたとのこと。アセハリタケの話をすると、やはり「当会の観察会では初めてかもしれない。是非見たい」とのこと。その場から、そのまま引き返すことにした。
戻る途中、明るい傘がよく目立つきのこがあった。福島氏と一緒に、写真を撮った。キツネノカラカサに似ているが、少し違うようだ。外観は、亜熱帯、熱帯産のニセキツネノカラカサに似ている、もしや?と感じたが、出会ったことがない菌であり、この仲間にはよく似た別種が多数あるので、何とも言葉に出せなかった。(本種は、福島会長に持ち帰って貰い、調べて貰ったが、結果は、胞子に刺がないとのことで、ニセキツネノカラカサではなかった。当地にも温暖化の影響で、南方系の菌が目立って増えているが、さすがに南の熱帯の島々の菌迄は、そう簡単には見つからないようだ)。
アセハリタケの群生地迄戻り、また時間をかけて福島会長にも、つぶさに見て貰った。先に記したように、寄主の切り株も、本種の有様も、衰退,腐朽が激しく、見た目は、ボロボロなので、とても一般の人は興味を持たないだろう。しかし、切り株の根元の裏側には、まだ、大きな、新鮮な白い傘が重生しているので、今後も、まだしばらくは、観察可能だ。すぐ近くで、栗原氏達が、朽木の高みに群生しているキクラゲを剥ぎ落していた。食べごろの上等品も多数収穫できたようである。
結局、私は、他には材上生の硬質の頒布種を幾種か採取したのみで、観察を切り上げ、同定会の準備の為、一人早めに川越公園に戻った。
(同定会場にて)
空模様は、相変わらず、好転することはないが、雨はまだ降っていない。大久保さんや藤野さんと再会、昼食もそこそこに、いつもの駐車場脇の木陰の草地にシーツを敷いて分類プレートを並べ同定場の準備を済ました。しかし、その後、程なく風が出て、バラバラと雨粒が落ちて来た。空しく、やり直し、結局、公園事務所に用意して戴いた場所へ移動した。
蒲鉾型の屋根の下、広くはないが、雨は凌げるので、ようやく安堵し、落ち着くことが出来た。順次、遅れて来た会員も来られて一日会員4名の方々も含めて、全員参集した。
私の仕事は、とりあえず、ここまで、、と、いつも思うが、なかなか、きのこが分類プレートの前に並ばない。いつものことだが、皆さん、手にしたきのこの名前を知っていても、所属の科や,属迄は、確信が持てないようだ。DNA鑑定から新分類が普及してからは、なおさら、苦手になってしまったようだ。「マツオウジは、どこへおけば良いでしょうか?これは、ツエタケと思いますが、、」と言った調子だ。これが、同定作業に時間がかかる一つの理由だが、きのこの種名より先に、所属の科や属の分類がすらすら判断出来れば、それは、同定の達人と言っていいのだろう。
しかし、今年は、分類、同定作業もさして手間どるまでもなく、終了した。例年になく、採集種が少なかった。特に、イグチの仲間は皆無で、ベニタケやテングタケ属もごく僅かだった。やはり、高温乾燥の日々が響いたのかもしれない。
同定作業終了後、大舘、福島、近藤さんから、それぞれ、短いながらも、本日の感想や、思い入れのある種について、以下のコメントがなされた。
(大舘副会長)
アカチャイヌシメジ(一般の図鑑には掲載がない地味な菌だが、特徴のある姿で、今年もこの時期に見られた)
ヤケアトツムタケ(探索地の森には、よく焚火した後が見られるので、今回は、意図して探してみたが、狙い通り、本菌を見つけることが出来た)
(福島会長)
アセハリタケ(これまで見逃してきてしまったかもしれないが、本菌が、当会の観察会の場所に出たのは、初めてと思われる。早速培養してみたい。)
カミホウライタケ(青木実図鑑に掲載された種で、広葉樹生。シロホウライタケの仲間と思われるが、良く似たものが4種程有る。ハナビラタケの芽出し菌として開発した種で、平成8年頃からたくさんの株を収集してみた。
ツエタケ(身近な菌だが、大きく分類が変わって多数の種に分類された。今回採集された菌も、専門の研究者に送ってみては、どうか、)
レンガタケ(マツ、モミ等の針葉樹に出る白色腐朽菌。やや稀に見られる)
*本種は、ベニタケ目ミヤマトンビマイタケ科マツノネクチタケ属の種。
(近藤副会長)
新入会員の方も来られたので、冬虫夏草を念入りに探したが、いつも見つかるオサム
シタケも見つからなかった。ようやく、みつけたのは、クモタケのみだった。
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観察会終了後、その場で役員会を行い、今後のホームページの管理方法について、担当の島田さんを中心にして、協議し、一定の結論に達した。
終了後、福島会長と大久保さんと私で、公園管理事務所に御礼の挨拶に出向き、謝辞を述べて、会報を届けた。管理官の皆さんは、まだ執務中だったにも拘わらず、事前の電話による予約依頼から雨天の鑑定場所の対応まで親切に対応して下さったS管理官をはじめ、全員、業務を止めて起立して、迎えて下さった。いつも雨天でも実施可能なように配慮して戴き、本当に有難いことである。
川越周辺観察会(2019.6.23)―確認種一覧
担子菌門
(ハラタケ目)
ヒラタケ科 ヒラタケ属:ヒラタケ スエヒロタケ科 スエヒロタケ属:スエヒロタケ ヒドナンギウム科 キツネタケ属:カレバキツネタケ キシメジ科 ハイイロシメジ属:アカチャイヌシメジ ツキヨタケ科 モリノカレバタケ属: モリノカレバタケ属3種、 アマタケモドキ(池田仮称) シロホウライタケ属 カミホウライタケ(青木仮称) タマバリタケ科 ツエタケ属:ツエタケの仲間3種 ラッシタケ科 クヌギタケ属:クヌギタケの仲間 ホウライタケ科 ホウライタケ属:オオホウライタケ、 カミホウライタケ(青木実仮称)、 ガマノホタケ科 ヒメカバイロタケ属:ヒメカバイロタケ テングタケ科 テングタケ属:ヒメコガネツルタケ、 フクロツルタケ、ウスキテングタケ? ウラベニガサ科 ウラベニガサ属:ウラベニガサ、 ベニヒダタケ ハラタケ科 キツネノカラカサ属:キツネノカラカサ(近縁種) ホコリタケ属:ホコリタケ ナヨタケ科 キララタケ属:イヌセンボンタケ、 コキララタケ ナヨタケ属:イタチタケ モエギタケ科 スギタケ属:ヤケアトツムタケ センボンイチメガサ属: センボンイチメガサ ニガクリタケ属:ニガクリタケ アセタケ科 アセタケ属:シラゲアセタケ チャヒラタケ属:クリゲノチャヒラタケ イッポンシメジ科 ヒカゲウラベニタケ属: ヒカゲウラベニタケ
(ハラタケ目―所属科未確定種) チャツムタケ属:コツブチャツムタケ
(以上 ハラタケ目―33種)
(イグチ目)
イチョウタケ科 イチョウタケ属:イチョウタケ (以上イグチ目―1種)
(ベニタケ目)
ベニタケ科 ベニタケ属:キチャハツ、カワリハツ、 アイタケ、ニオイコベニタケ、 クサハツ、ドクベニダマシ、 ヒビワレシロハツ ミヤマトンビマイ科 マツノネクチタケ属:レンガタケ、 チチタケ属:ツチカブリ、チチタケ マツカサタケ科 ミミナミハタケ属:イタチナミハタケ フサヒメホウキタケ属: フサヒメホウキタケ ウロコタケ科 キウロコタケ属:チャウロコタケ
(以上ベニタケ目―13種)
(キカイガラタケ目)
キカイガラタケ科 マツオウジ属:マツオウジ (以上キカイガラタケ目―1種) (タマチョレイタケ目)
マクカワタケ科 エゾハリタケ属:アセハリタケ シワタケ科 ヤケイロタケ属:ヤケイロタケ、 エビウラタケ ツガサルノコシカケ科 オオオシロイタケ属:アオゾメタケ ホウロクタケ属:ホウロクタケ ツガサルノコシカケ属: ツガサルノコシカケ タマチョレイタケ科 タマチョレイタケ属:アミスギタケ、 スジウチワタケモドキ ウチワタケ属:ウチワタケ、 ツヤウチワタケ ヒトクチタケ属:ヒトクチタケ シュタケ属:ヒイロタケ シロアミタケ属:アラゲカワラタケ、 クジラタケ、カワラタケ、オオチリメンタケ カイガラタケ属:カイガラタケ チャミダレアミタケ属:エゴノキタケ、 チャカイガラタケ ホウネンタケ属:ホウネンタケ マンネンタケ属:オオミノコフキタケ サビハチノスタケ属:サビハチノスタケ キンイロアナタケ属:サワフタギタケ
(タマチョレイタケ目―所属科未確定種) ミダレアミタケ属:ニクウスバタケ、ミダレアミタケ (以上タマチョレイタケ目―25種) (タバコウロコタケ目) タバコウロコタケ科 キコブタケ属:ネンドタケ、ネンドタケモドキ (タバコウロタケ目―所属科未確定種) オツネンタケ属:ニッケイタケ、 シハイタケ属:シハイタケ、ハカワラタケ、シラゲタケ (以上タバコウロコタケ目―6種) (キクラゲ目)
キクラゲ科 キクラゲ属:キクラゲ、アラゲキクラゲ ヒメキクラゲ科 ヒメキクラゲ属:タマキクラゲ
(シロキクラゲ目) シロキクラゲ科 シロキクラゲ属:シロキクラゲ (以上キクラゲ類―4種) 子嚢菌門 (クロサイワイタケ目) クロサイワイタケ科 ヒポキシロン属:クロコブタケ (ボタンタケ目) 所属科未確定 ノムラエア属:クモタケ (以上子嚢菌―2種)
(合計85種、他未同定数種)
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